王一博は台所に立ち入り禁止です。王一博は台所に立ち入り禁止です。
大事なことなので二回言いました。中国でなら三度言うべきだが。重要的事情说三遍。
一起火锅吧の第二シーズン、第四回をみただろうか。隊長たちが各々手のこんだ自慢の料理を披露するなか、王一博は手抓饼をつくった。つくったといえば聞こえはいいが、出来合いの生地を焼いただけである。誤解しないでほしい。あれが料理か?などと言うつもりは毛頭ない。そういう話はしていない。
あのときのあいつの態度をみたか?
いつもよりもさらに言葉少なく、上目遣いで周囲を窺う。小動物のように背景に溶け込み、念入りに手を洗う。
わかってやっている。
かわいい? そうだろう、そうだろう。そう思ったのなら、もうアレの手の内にある。
マジックだの、ヨーヨーだの、飛び道具に迷わされるな。まるでしかたなく、とでもいうように始まり、次々と大技を披露しては、その場を自分のステージにしてしまった。
だいたい、あんなものではない。
あいつは二度うちを焼きかけたのだ。幸運にも大事には至らず、ニュースになることもなかった。だが、想像してみてほしい。もし、おれたちふたりが死んでいたらどうなる?
本当にふたりは一緒だったのね。ふたりはもう離れることはないの。なんという悲恋!
そう、永遠に語り継ぐか? 冗談はよしてほしい。ただのあいつの不手際におれを巻きこむな。
二十代も後半になって火の始末もろくにできないとは。いったい、どういう人生を送ってきたらそんなことが起きるのか。
おれだって幾度となく教えようとした。何度、洛阳のあいつの実家に怒鳴りこみたかったことだろう。両手の指に足のそれをいくらか足したところで、数えきれない。その度に、十三歳から家を出ていたのだから、親御さんの責任ではないのだと、深呼吸をして自らをなだめた。
それなら、だれの責任だというのか。周艺轩か? それとも、おれか?
一度など、おれの誕生日に食事を用意しようとし、オーブンを燃やしたのだ。
寝室に閉じ込められ、妙な匂いがつん、と鼻を刺した。自分のために慣れない台所に立つ恋人を想い、少しの胸の高鳴り、それを打ち負かす不安が部屋を満たし、空気を重たくしていく。忙しくてろくに使えておらず、使う日を待ち望んでいたドイツ製の高級オーブンが焼ける匂いを嗅ぐしかなかった気持ちがわかるか。糟糕。
現在、おれはめまいに回る頭を鍛えあげた僧帽筋でなんとか支え、冷蔵庫の扉に背を凭れ、風邪をひいたおれのために粥をつくると言ってきかない彼にひとつひとつ、指示を出している。
陰米を強火で二十五分煮る。赤砂糖をふたつ、棗を加えて弱火でさらに十分。クコの実を入れて混ぜればできあがり。
以前、街舞と映画の撮影が重なり、無理をしてダウンしたことがある。そのときに食べさせた重庆の甘い滋養粥を憶えていて、食べさせたいのだと言う。スプーンを口に突っ込んだまま、ぽろり、とひと粒の涙がまるい頬を転がり落ちる様子は、いまも忘れることはない。映画の一場面のようだった。どうしたのかと聞くと、おいしくて泣けてきた、と零した。
鍋から湯気が立ち昇る。慎重に攪拌しながら、まるで魔法でもみているのかのようにオレンジ色の粥ができあがっていくのを見守るさまは、小学生男児のようだ。もう、三十の足音もすぐそこに近づいているというのに。
「おまえも食べれば」
そう言っても首を横に振り、こちらが食べるのをずっと見ている。インチキをされてなるものか、とでもいうように。
食欲はなかったが、なんとか食べ終えた。
歯を磨いているあいだに用意された薬を飲んだ。病人を寝室に送り届けてキッチンに戻ろうとする彼を捕まえて、ベッドに横になるように言う。
「そっち向いて」
寝床に潜り込み、後ろから広い背中を抱き、ごつごつとした肩甲骨のあいだに顔を埋め、深く息を吸い込む。香水などつけていない、プライベートの、ひどく嗅ぎ慣れた匂い。骨ばった子豚だな、もっと食わせなければ、などと思う。
もそもそと、低い声が直に伝わる。鍋に米がこびりつくのを心配しているらしい。米がこびりつくくらい、なんだっていうんだ。家を二度も燃やしかけたくせに。
だいたい、王一博の台所への立ち入りは禁止されている。